HOUSE VISION 2(2016)


残すところあと二日なので、終わる前に感想を。ただ、単なる感想もあれなので順位をつけました。この5つは必見。


1)「冷涼珈琲店ーー煎」 AGF×長谷川豪
基礎を兼ねている(だろう)大きなベンチの上に檜の丸柱が一直線に並び、その上をコーヒー豆の豆袋を想起させる麻布が掛けられただけのとても単純な建物。ともかく会場は猛烈に暑いので、会場の中央にあって、麻布で影をつくり、風でふわふわと揺れるこの建物は涼しげで外から見ているだけでも気持ちいい。もちろん、実際に中に入っても、麻布は外を歩く人の顔が隠れるちょうどいい高さに設定されており、外部に開放されつつもふんわりと包まれた大変気持ちのよい空間になっている。
ともかく、この建物がいいのは、暑いこの季節の屋外展示という、このプログラムと敷地に正面から答えている所。ここでしかできないことをきちんとデザインし表現として結実させている。


2)「賃貸空間タワー」大東建託×藤本壮介
中央に谷状の外部空間を持った賃貸住宅。いわゆるシェアハウスとは違うという触込みだが、風呂、キッチンダイニング、ライブラリーなどを共同にすることで、大きく贅沢な空間としているという点は基本的に普通のシェアハウスと同じ。ただ、それらの空間同士を一度切り離し、谷状の外部空間で連結させるという空間の配列の部分を刷新している。図式としては森山邸の立体集合版にも見える。
この建物が素晴らしい点は、HOUSE VISIONという屋外で建築家のパビリオンが並ぶこの展覧会において、建築家がなにをするべきかということを完璧に理解し表現している所だろう。遠く離れた場所からでもアイコンとして機能し、ともかく一度は登ってみたいと誰にも思わせる。実際にはその半分も登ることはできないし、内部空間の大半はドアがついているだけで中は見れないハリボテではあるのだけれど、それも法規的な問題(二階以上の木造建築物は被覆しないといけないが、この建物は3階以上に外からは見えるけれど、上部は単なる装飾なので法的には2階だてになっている)と考えるととても合理的な判断に思える。そもそも、もしこの建物がなかったらHOUSE VISION 2という展覧会自体がとても寂しいものになっていただろう。また、前回のHOUSE VISION 1で模型を展示していた地域社会圏モデルにプログラム的にはとても近いのだけれど、それすらも飲み込み、自分のものにしていく豪腕さは凄い。実際にモノを展示するという強さをまざまざと見せつけられた。ただ、前回の地域社会権モデルは1/5だったので、設計者の山本さん、末光さん、仲さんは気の毒な気もするが…。


3)「吉野杉の家」Airbnb×長谷川豪
吉野杉で有名な吉野町に建てられる宿泊施設を一度パビリオンとして東京の会場で展示し、会期終了後分解し、トラックで移設するというもの。基本的にすべて「木」だけでつくられており、実際の敷地では川と一体になるだろう大きな縁側、頭を少しかしげないと歩けないぐらいに抑えられた、ただ寝転ぶと包まれたような安心感のある2階の空間など、一見、単純だけど、どこを取ってもとてもきっちりつくられている。特に寸法は厳密。ひとつの建築物としてみると、この建物が一番完成度が高いのだけれど、下記2点がどうしても引っかかってしまった。
ひとつ目はどうしようもない部分ではあるのだけれど、川沿いの美しい景色の中に置かれる建物を展覧会の会場で見るという部分にひっかかり、その差をどうしても想像では埋める事はできなかった。そのため、他の建物よりリアルなはずなのに、逆にどこか嘘っぽく感じてしまった。
二つ目もひとつ目と少し関係があるのだけれど、細かいディテールの部分が妙に凝りすぎていて逆にしらけてしまった。壁の木と同じ素材でつくられたコンセントプレートや天井の板がそのまま光る(木目が浮かび上がる)照明に、皮付きの板が貼られたトイレなど、素材やディテールを凝れば凝るほどどこか嘘っぽく見えてしまう。ただ、逆に言えば、スイッチまで木でつくるとか、スマホですべて制御するとか、もっと精度を上げきってもよかったかもしれない。とはいえ、普通に見れば、とてもよくできているのは事実なので、ぜひ移設した先で実際に宿泊してみたい。


4)「凝縮と開放の家」LIXIL×坂茂
水回りを集約させたライフコアと、電動で開閉する巨大なガラス扉がなんといっても特長的で、家の未来というテーマにエンジニアリングとして正面から答えた唯一の展示といってもいいだろう。その点では一番面白かった。特に、軸吊りとスライド式を組み合わせたドアは設計者的には萌える。また、今回住宅特集(2016年8月号+9月号)で水回り特集を担当し、さらに動く水回りの提案をしたのでライフコアは勉強になった。ただ、せっかくなら実際に動かせるほうが良かったし、表面的なデザインとしてもああいうミニマルな方向ではなく、ユーザーが自由に組み合わせたりカスタマイズできたりすうようなラフでタフなデザインの方がコンセプトとは一致したように思う。この辺りは個人的にも継続的に考えていきたい。


5)「内と外の間/家具と部屋の間」TOTOYKK AP×五十嵐淳・藤森泰司
大きな窓のような家具のような部屋がリビングからたくさん突き出した家。こちらも大きなトイレやキッチンや風呂など、水回り空間を居室のように使うという提案でもあるので、その辺りはライフコア同様に興味深かった。ただ、ひとつの家の中に様々な特徴的なスペースがあるというのはとても豊かなことだと思うのだけれど、さすがにリビングが狭すぎる気がするし、家具というのであれば、もうちょっと完成度を上げてつくって欲しかった。もちろん予算あってのことではあるけれど、飛び出る箱をいくつか減らして良かったように思う。


あと、これは誤読かもしれないが、個人的には、伊勢丹と谷尻さんの家が「倉庫に好きなものを並べて適当に住めばいい」というコンセプトに見えて、デザイン的な好みは置いておいて(基本的に趣味として和風は苦手なので)いいと思った。
他はどれも厳しいというのが正直な所。特にデジタル系は見ていてつらい。永山さんとパナソニックは永遠に白い壁を見るだけだし、柴田さんとヤマトにいたっては冷蔵庫のパネルをデザインしているだけなので建物をつくる必要すら感じない。勝手なことをいうと、この辺りの予算を五十嵐さんに持っていきたかった。あと、凸版印刷原研哉の木目の家は、印刷がメインの展示で解像度が荒いというのは致命的ではないだろうか。

とはいえ、LIXILのようなガチの技術的な提案もあり、長谷川さんのようなひとつの建築物として完成度の高い作品もあり、藤本さんのアイコン建築もあり、上記に挙げた5つの提案は素直に楽しめるはず。特に、自分がそれぞれのブースの設計者だったらどうするか?というのをリアルに想像しながら展示を見ると十二分に楽しめる展覧会だと思う。もうあと2日しかないので夏の最後にぜひ!