東急プラザ  設計 中村拓志

東急プラザ 。ちょっとした事件というぐらい個人的にはびっくりしたのだけど、あまり言及されていないので書く。個人的にはまちがいなく近年の日本の商業建築では最高傑作。特に建築家と呼ばれる人間が作ったものとしては。

しかし、正直に言うと、ぼくも完成予想図を見たときはその良さが分らなかった。さらに言えば、工事中に仮囲いの隙間から特徴的なタイルや鏡面の多面体が見えてきたときでさえ、それほどいいとは思えなかった。…のだが、オープンしたあと、実際にエスカレーターを登り、5階あたりまできた段階でようやくなにが起きてるかを完全に理解し、驚愕した。
要はなにもかもが完璧なでに商業の論理で組み立てられていて、それがあまりに高度なのだ。
順を追って説明すると、まず、この手の都心部の、それも一等地にある商業ビルの場合、1階の賃料が最も高い。それもファサードまで自由にできるとなると、さらに賃料は高くなる。
また、逆に、2階や地下は通常であれば1階よりも賃料が下がるのだが、これを1階のテナントに一緒に貸すことができれば借りた方は3階建ての独自の館として店舗をつくることができるため、やはり賃料は高く設定できる。さらには角地の隅にエスカレーターを持ってきたことによって、3分割にされたテナントは、それぞれがコーナーに建っているようなかたちになるために2面のファサードを持つことができ、これもまた、入るテナントにとっては魅力的な条件になる。
このようにして、地下から2階まではテナントとしてファサードごと貸しだし、エスカレーターやエレベーターといった縦動線以外の共用部分を完全に消し去ることで、最も高い1階の賃料を無駄なく貸すことが出来ている。
しかし、そうすると1階のテナントに入った客は、目的の店を見終わると他のテナントを見ることなくそのまま出ていってしまうために3階より上に客を運ぶことが困難になる。そこで、あの鏡面の多面体でできたエスカレーターが必要になってくるのである。さらに、屋上に魅力的なテラスを設けることによって、いわゆるシャワー効果を生み出している。
また、中間階にもできるだけ窓を開け光を取り入れたり、テラスを設けたりすることで、館全体が明るく開放的な雰囲気になっており、さらに、周りを眺められることで一等地にある条件を最大限に生かしている。
さらにはエスカレーターの登りと下りを揃えることで(これは3層までの一直線のエスカレーターによって実現している(6層ぐるぐる回るのはさすがに無理があるので))、より開放的にしつつ回遊性も持たせたり、プランも単純な積層ではなく、階によって違う雰囲気になるように工夫されていたりと、ともかく思いつくだけでもかなりのアイデアが投入されていて、みていて歯ぎしりする思いだった。これは本当に素晴らしい。
あまりによく出来ていたので、中国とかで全く同じものが出来るんじゃないかと本気で思った。

ともかく屋上のテラスは普通に気持がいいので一度は行ってみてください。

しかし、東急プラザも唐突に出来たものではなく、one表参道の構成を思いっきりバージョンアップしたかたちではあるので、なにごとも一日にしてならずってことですね。